けふっとしてそこはかとなく笑えてこわくてだだっぴろい世界へ。ただいま超不定期更新中(なかにしけふこ)
by hortus71
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31


『現代思想2014年5月増刊号 総特集・折口信夫』に「幻影の人の叢林をゆく 西脇順三郎から見た折口信夫」を書きました。

現代思想2014年5月増刊号 総特集折口信夫」に「幻影の人の叢林をゆく 西脇順三郎の見た折口信夫」を書きました。60枚余りの学術論文スタイルの論考です。対談と著作における折口への明示的な言及を可能な限り拾い、「西洋古代中世文学の長期的持続の心性史の試み」としての『古代文学序説』に言及する、という西脇から見た折口論としては新たな視点を打ち出した論考です。

「総特集・折口信夫」、よい冊子です。安藤礼二さんの巧みなキュレーションが光ります。豪華執筆陣がさまざまな角度から巨星の輝きを照らし出します。長く読まれる冊子になると思います。手になじむ装幀も美しい。みなさまぜひお手にとってごらんください。
東大宗教学関係からは、巻頭エッセイに中沢新一さん、対談に島薗進先生、論考に津城寛文先生と江川純一氏が登場。大活躍です。
そして、私の高校同窓の大先輩である小松和彦・赤坂憲雄両先生と同じ誌面に登場するという念願がはじめて叶いました。




私の主専攻は帝政後期ローマ/初期ビザンティン宗教文化史ですが、この時代に折口信夫がまったく関係ないわけではないのです。折口信夫はユリアヌスの大ファンでした。ことしどこかでこの話をしたいのですが。
ポスト・ローマ期には西脇順三郎は関係大ありです。だってローマ帝政期から中世後期までのゲルマン文学の「永遠をめぐる長期的持続」の心性史ともいうべき『古代文学序説』があります。
『古代文学序説』には、英語が敵性言語だった時代の日本人による著作としてはやはり瞠目すべきスケールの大きさがあります。

『古代文学序説』は戦前戦中の西脇順三郎の文学論文学史論の集大成として読むべき作品で、いまではそのまま首肯しがたいところもいろいろあります。中世英文学研究者からのコメントとしては松田隆美先生のすぐれた論考「中世学者としての西脇順三郎」を勧めます。
私といたしましては、西脇順三郎が『ガリア戦記』からアウグスティヌス、ボエティウスに至るラテン文学をどのように読んだかを検討したいと思っています。幸い津田塾大学と小千谷市立図書館・西脇順三郎記念室に現存する西脇蔵書からかなりのレファレンスが可能だという手掛かりをえました。

『古代文学序説』は西脇の「古代・中世ゲルマン文学の心性史叙述」の試みです。ここで言及される古代末期の「永劫の人」のあらわれをめぐる(宗教関係の)代表的著作家はやはりアウグスティヌスとボエティウスです(カッシオドルスが出てきたかどうかは確認しておきましょう)。このような歴史観には、西脇が参照した思想史・文学史叙述の性質も何らかの影響を与えているでしょう(エティエンヌ・ジルソンの作品は相当読み込んでいたようです)。古代末期のガリアの文化を知る上では必須史料ともいえるアンミアーヌス・マルケリーヌス、ノラのパウリヌス、ボルドーのアウソニウスらの作品には言及がありません。これはなにを意味するのか。。

古代末期のガリア・ゲルマニアと文学をめぐる話題といえばむろん宮廷の文人たちとサロンをつくって喜んでいたユリアヌスも登場するはずですが、西脇順三郎はこの話題にまったく言及しておりません。ライト訳注によるユリアヌス著作集も一九二〇年代にはすでにロウブ叢書から出ていましたから、西脇がそれらを読めないことはなかったはずです。

一方で折口信夫はメレシコーフスキイ『神々の死』を通してユリアヌスの大ファンになりました。折口信夫をめぐる西脇の回想にはこの話題がまったく出てきません。若き日の西脇が傾倒したウォルター・ペイター『享楽主義者マリウス』はマルクス・アウレリウスの治世が舞台です。これはいったいどうしたことだ。。。。という感触を得たところです。

『古代文学序説』でも文学史叙述に「遠いものどうしの衝突と連結のおどろき」(これは『超現実主義詩論』以来の西脇の詩的信条でもある)を出したがったりと不思議なところもあるのですが、文学のなかにほのみえる永劫のけはいの心性史を書こうとしたスケールの大きさはやはり魅力的です。

折口信夫が折口語彙を使い、民俗学の手法を駆使して古代の日本文学の心性を描き出そうとしたように、西脇も主に当時の英仏の宗教人類学/民俗学の方法論によってだけでは語れない古代・中世文学のなかの永劫のあらわれを「永劫の人」という西脇語彙(!)を使って語ろうとしたのではないか。

そのあたりのことを今回「現代思想」の折口特集号に寄稿した論考でも書きました。そして西脇の古代と「永劫の人」の話題はこれからもうすこし丁寧に読み込んで議論を積み重ねてゆけば一冊の本になるだろうという手掛かりをえたところです。みなさまよろしくお願い申し上げます。

Kyoko Nakanishi,  April 2014

by hortus71 | 2014-04-08 23:28 | けふ詩への道
<< 蟠桃祭御礼 歌とトークとワインの夕べ「蟠桃... >>